転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


77 お出かけの前に



 イーノックカウに向かう事になった僕。
 でもその前にやっておかないといけない事が二つあるんだ。

 その内の一つは雲のお菓子を作る魔道具を魔道リキッドでも動かせるようにする事。
 だって僕がこの村を留守にすると、スティナちゃんが楽しみにしてる雲のお菓子を作れるのがキャリーナ姉ちゃんだけになっちゃうもん。
 でもお姉ちゃんはパーティーを組んでる人たちと森に出かけちゃう事があるから、毎日スティナちゃんに作ってあげる事が出来ないそうなんだ。
 と言う訳で、僕は早速その作業に取り掛かったんだけど。

「これってもしかして、新しく作り直したほうが楽なんじゃない?」

 そう、前に雲のお菓子の魔道具を作った時はとりあえず動けばいいやって感じで作ったもんだから必要最小限のものしか付いてないんだよね。
 でも誰でも使えるように改良するとなると、魔石が燃料である魔道リキッドに浸かるようにしなきゃいけないから今のままだとわざわざ細い管を作ってそれを通して魔道リキッドを注入しないといけなくなるんだよね。
 でもそんな改造をするとなると、凄く面倒な上に壊れやすくなっちゃうんだ。
 だから今ある雲のお菓子の魔道具を改良するのはやめにして、一から作る事に。

 と言う訳で、まずはイーノックカウで買ってきた魔道具作成の本を見ながら魔道回路の設計図を書く。
 先にこれを書いておかないと実際に魔道具を作るとき、困っちゃうからね。

 それが出来上がったら回転用の無属性の魔石とお砂糖を溶かすための火の魔石を寸胴鍋の外に取り付けた燃料壷の中に設置して、そこから水で薄める前の魔道リキッド原液を使って設計図通り各魔道具に向かって術式を書いて行く。
 で、全部の術式を書き終えたら壷に魔道具を動かす燃料用の魔道リキッドを入れてスイッチオン! ちゃんと魔道具が動くかどうかを確認したら魔道術式に使った魔道リキッドを定着させて完成だ。

 とりあえず完成したって事でそれを持って庭へ。
 お母さんに声をかけて、僕以外がスイッチを入れても雲のお菓子ができるかどうかを試してもらったんだ。
 もしかしたらさっきは僕の魔力で動いただけで、他の人が動かそうとしたらダメだったなんて事があるといけないからね。

 で、実際に使ってもらったらお母さん1人でも雲のお菓子が作れたから一安心だ。
 そして僕とはまた別の意味でお母さんも一安心。

「まぁ、よかった。これからは近所の奥さんたちに頼まれた時も、ルディーンやキャリーナに作ってって頼まなくても良くなったわ」

「そう言えばスティナちゃんの分を作ってる時、よく一緒に作ってって言われたね。あれって、近所のおばさんたちの分だったの?」

「そうよ。この村にはお菓子なんて他にないもの。結構な評判で欲しがる人も多かったんだけど、ルディーンやキャリーナじゃなければ作れ無かったからみんな順番待ちをしているのよ」

 なんと、お肌つるつるポーション(髪の毛つやつやポーションにあわせて改名)だけじゃなく雲のお菓子も順番待ちだったのか。
 それなら言ってくれればいいのに。
 この魔道具を作る事自体はそんなに大変じゃないんだから、知ってたらもっと早く作ったよ。
 そうお母さんに言うと、

「いいのよ。もしもっと早くに作ってたら、きっとこの村のお砂糖はみんな雲のお菓子になっていたでしょうからね。順番を待っているうちに我慢する癖がついた今なら大丈夫でしょうけど、甘味も結構人を惑わすからね」

 こういう理由で僕に頼まなかったんだってさ。
 そっか、確かに村中のお砂糖が無くなっちゃったら大変だもんなぁ。
 まぁそうなったら僕が作ればいいだけの事なんだけど。

 でも、実はうちの分以外は魔石からお砂糖を作るのはやめた方がいいって司祭様から言われてるんだ。
 何でもかんでも僕の魔法に頼るようになると、もし僕がどこかに行かなきゃいけなくなった時にみんなが困っちゃうからなんだって。
 今の僕はずっとこの村にいるつもりだけど、将来お嫁さんになる人が別の村や町に住んでる人で、その人に兄弟がいなかったりしたらそっちへ行かなければいけなくなるでしょ? って言われて納得したんだ。



 さて、イーノックカウにいくまでにやらなきゃいけない事の内、一つは終わったからもう一つの方に取り掛かろう。

「ロルフさんは失われたって言ってたけど、賢者が10レベルになったんだから使えるはずだよね」

 僕はどきどきしながらステータスを開き、7レベルから使えるようになる魔法の欄を確認する。

 ジャンプ
 転移魔法 必要魔力15

 するとそこには、ちゃんと目的の魔法が載ってたんだ。

「あった! ってことはジャンプが使えるって事だよね」

 そう、僕がやらなきゃいけないと思っていたのはこのジャンプの魔法が使えるかどうかの確認だったんだ。

 この魔法は実際にその場所に行って魔石を使って書く魔法陣を設置すると使えるようになる帰還型転移魔法で、今の僕のレベルだと3箇所まで飛ぶ場所を設定できるんだ。

 今回のようにイーノックカウまで行くなんて事はそうそうあるものじゃないし、この機会を逃すと転移用魔法陣を何時設置しにいけるか解んないから、もし使えるようなら行くまでに実験をして置きたかったんだよね。
 と言う訳で、早速村の入り口に魔法陣を設置してジャンプを使ってみよう! そう思ったんだけど。

「あれ? 魔法陣ってどうやって書くんだろう?」

 ジャンプの呪文は解る。
 ドラゴン&マジック・オンラインの中で使った記憶があるし、なにより呪文自体がステータス画面で確認できたからね。
 でもこれが魔法陣を書くとなると違ってくるんだ。
 だってゲームの中での設置はボタン一つでできてたから、実際にその魔法陣を書いてたわけじゃないんだもん。

「もしかして失われたって言うのは魔法の呪文じゃなくて、この魔法陣の設置なのかも」

 そう言えば誰でも使えるはずのお空を飛ぶ魔法、フライも紋章を刻む水晶がこの世界にはないから失われてるんだよね? ならこのジャンプもそうなのかもしれない。
 となるとテレポートもそうなのかなぁ?
 あっちは予め飛ぶ場所に何かを設置する必要はないけど、見えてる場所と違って遠くへ飛ぶためには魔法を選んだ後に飛ぶ場所を一覧から指定しなきゃいけなかったんだよね。
 ならその一覧を出す方法が解んなかったら使えないって事だもん。

「これは困ったぞ」

 ロルフさんが失われたって言ってたんだから、その魔法陣の書き方がどこかの本に載ってるなんて事はないと思う。
 ならどうやっても調べようがないし、魔法陣が書けないならジャンプを使う事はできない。
 それに気が付いた僕は、がっかりしながらステータス画面のジャンプの文字を見つめたんだ。

「使えるって書いてあるのに……どうして魔法陣の書き方が書いてないんだよ!」

 僕はちょっとだけ怒りながら、そのジャンプの文字を指で突いたんだ。
 そしたら。

「あれ? 画面が変わった」

 どうやら魔法の詳しい説明が書かれたページがあったみたいで、僕がステータス画面に浮かんでたジャンプの文字を突いた事でそれが開かれたみたいなんだよね。
 そしてそこには、

「魔法陣の作り方だ……」

 そう、そこには魔法陣の設置の仕方が書いてあったんだ。
 それによると魔法陣に使う魔石は何でもいいって訳じゃなくって、ある一定以上の魔力を含んだものじゃないとダメみたい。

「書かれている魔力量からすると……これくらいかなぁ」

 僕は魔石入れからちょっと大き目の魔石を取り出した。
 それはこの間森に行った時に狩ったブラックボアって言う魔物から取れた魔石。
 そっか、たぶん7レベルくらいの6人パーティーが、なんとか狩れる位の魔物から取れる魔石がこのジャンプの魔法陣には必要だって事なんだね。

 僕が持っている魔石の中にジャンプの魔法陣を書くために必要な魔力を含んだものがあって一安心。
 ただこれ一つしか持ってないから、イーノックカウに行く前に村の入り口で実験するわけには行かなくなったのがちょっとだけ不安ではあるけどね。
 でもステータス画面の説明に書いてある事なんだから多分間違ってはいないはずだし、それに実験はイーノックカウの近くでやってみて、成功したら改めて村入り口の分も魔石を手に入れて設置すればいいだけだもん。
 順番が逆になっちゃうけど、両方に設置できればこれからはイーノックカウに簡単に行けるようになるんだから、やるだけやってみたらいいんじゃないかな。


 さて、魔石も手に入った事だし、次は魔法陣の書き方と設置方法だ。
 と言う訳でその先を読み進めると、どうやら予め魔石に魔法陣を刻んでおいてそれをジャンプ先に設定したい場所に投げれば魔法陣がそこに設置されるんだって。

「ああ、そう言えばゲームの時も魔方陣設置の時にそんなしぐさをしてたっけ」

 なるほど、ここはゲームと同じってわけか。
 じゃあ魔方陣はどうやって魔石に刻むのかって話になるんだけど、

「えっと、ああ属性魔石を作るのと同じようなやり方なのか」

 どうやらまずは一度ジャンプを唱えて魔力の動きを覚えて、他の属性魔石を作る時と同じように変質させるんだって。
 そしてその後、ステータス画面に載っている魔法陣を見ながら頭に浮かべて魔力を注ぎ込めば刻み込まれるみたい。
 でもこれって錬金術が使えないと作れないんじゃないかなぁ? それにステータス画面が見られない人は魔法陣が解らないから最後の刻む作業もできないし。
 う〜ん、案外こう言う所も転移魔法が失われて行った理由なのかもね。
 最後の魔法陣に関しては誰かが描き起こせばいいのかもしれないけど、複雑すぎて僕にはとてもできそうにないもん。

 そんな事を考えながら取り合えず、

「ジャンプ」

 力ある言葉を唱えて魔力の動きを確認してから、ブラックボアの魔石を錬金術でジャンプの魔力属性に変質させる。
 その時ふと気になったので鑑定解析を使ってみたところ、時空間の魔石ってでたんだ。
 転移だから僕はてっきり空間の魔石になると思ったんだけど、瞬間的に移動するんだから時間も関係した魔法なんだろうね。
 でもまぁ、この魔法陣設置以外の使い方がまったく思い浮かばない魔石だし、さっさと魔法陣を刻んでしまおう。

 ステータス画面にある物を見ながらでもいいんだから魔石に魔法陣を刻み込むのに失敗なんかするはずも無く、僕は無事中央に小さくて簡略化された魔法陣が浮かび上がるジャンプに必要な魔石を手に入れることが出来たんだ。


 ボッチプレイヤーの冒険が完結したら、この作品は別の場所に投稿を開始します。
 その時は衝動のページとしてのリンクを外しますから、それまでにこのページに直接リンクするか、衝動の部屋の上、リンクの部屋の説明文にある最後の。をこの衝動の部屋トップページにリンクさせているので、以降はそのどちらかでアクセスしてください。
 リンクを切ってからもなるべく今と同じペースでこのHPに最新話をアップするので。


78へ

衝動のページへ戻る